月刊音楽雑誌『レコード・コレクターズ』2019年4月号での「COLLECTORS’ TOPIC〜小西康陽も注目する神戸のシンガー・ソングライター:宮田ロウのシングル盤」で、除川哲朗さんによる、宮田の紹介記事を、1ページ分、掲載していただきました。ありがとうございます!
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宮田ロウ
小西康陽が“今すぐ誰かに話したく“なった神戸のシンガー・ソングライターが7インチ盤をリリース
昨年11月3日の“レコードの日“、ラインナップの1枚としてリリースされた宮田ロウの7インチ・シングル『悲しみはさざ波のように』。雪解けのせせらぎみたいに潔い自作2曲とピチカート・ファイヴ「メッセージ・ソング」の弾き語りカヴァーがふんわり胸打つ柔らかさで収められている。そしてステッカーには、本作の発表に一役買った小西康陽のこんなコピーが添えられていた。“いますぐ、誰かに話したくなるような音楽。神戸の街に、ひとりのシンガー・ソングライターがいる、ということを知ってもらいたいのです“。
ネット時代の利便性を受けて、感性豊かなミュージシャンが地域に根差しながら活動の場を自由、迅速に広げられるようになった昨今。しかし、それと逆行するような草の根的経緯から本作は実現に至っている。そこがまた面白くも微笑ましいところで、本来レコードのあるべき姿ってこっちなんじゃないか、などと改めてピュアに考えさせられたりもして。
経緯は、数年前、大阪のDJパーティーに招かれた小西を訪ねて宮田が直談。知己を得、小西も渡された作品を一聴して気に入ったという。それからゆるやかな交流が続いての昨年夏、出来上がった新作デモに先のコピーのような想いを抱いた小西。再び大阪のDJパーティーで宮田と談話中、“レコードで聴いてもらうのが一番“とDJ仲間のグルーヴあんちゃんを呼び止めて彼のレーベルからの発売を即決させたという、多分にポップス・マジックを含んだ流れである。そんな点から線へのエピソードが、かつてレディメイドで最速リリースされた曽我部恵一の初ソロ7インチ、和田珈琲店とパイドパイパーハウス経由で細野晴臣のレーベルに辿り着いたピチカート・ファイヴ自身とか、音楽愛が引き寄せる絆についていろいろ巡らせてくれるから。ちなみに宮田が最初にプレゼンしたアルバムのタイトルは『ゴリラ』で、奇しくもジェイムス・テイラー、小西プロデュースの夏木マリの同名作と3部作を成して(?)もいる。もちろん中身の方も遜色なく素晴らしい。
大切な後輩への眼差しがほどよく温かい小西のライナーにはその経緯の他に、長門芳郎、大江田信、松永良平といった違いの分かるレコード・バイヤー/プレゼンター諸氏に是非とも聴いてほしい旨と、バンドを解散してシンガー・ソングライターとして身を立てたジェリー・ジェフ・ウォーカーやエリック・ジャスティン・カズなんかを引き合いに出した印象が記されている。名盤探検隊の香りも漂ってきそうだが、宮田の音楽性に枯れた感じは一切ない。イノセンス溢れる青年声で幾つになってもロマンチックを止められないようなメロディを、あくまでもポップに紡いでいく。その風合いは、トニー・コジネクやアサイラム時代のネッド・ドヒニーあたりに類するところだろう。そしてポップな中にも深い叙情を滲ませるセンチメンタリズム。爽やかながらも決して流されない含蓄がある。春を待つ冬の息吹を帯びた『悲しみはさざ波のように』の3曲含む待望のニュー・アルバム『ブラザー、シスター』は、風薫る新緑の候5月29日に発表される。
文=除川哲朗
『レコード・コレクターズ』2019年4月号掲載